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福島地方裁判所 昭和45年(行ウ)12号 判決

東京千代田区麹町二丁目一〇番六号ロイヤルハイツ二階B

原告

松尾和子

右訴訟代理人弁護士

武田峯生

被告

福島税務署長

古川多賀雄

右訴訟代理人弁護士

伊藤俊郎

右指定代理人

鈴木光幸

南部秋雄

紅林実

小川誠

佐々木憲郎

千葉嘉昭

山田昇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求原因

1  被告が原告に対し昭和四四年四月一八日付で行なつた昭和四三年分贈与税及び無申告加算税の各賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は原告に対し昭和四四年四月一八日付で昭和四三年分贈与税及び無申告加算税につき次のとおり賦課決定(以下本件処分という)した。

(一) 昭和四三年中に取得した財産の価額二、〇〇〇万円

(二) 基礎控除額四〇万円

(三) 課税価額一、九六〇万円

(四) 贈与税額一、〇四九万五〇〇〇円

(五) 無申告加算税一〇四万九五〇〇円

2  本件処分は、被告が訴外織田大蔵(以下大蔵という)の原告に対する二、〇〇〇万円の貸付を贈与と誤認してなしたものであつて違法である。

よつて原告は本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

三  被告の主張

本件処分は後記のとおり適法である。

1  原告は昭和四三年三月一二日大蔵から二、〇〇〇万円の贈与を受けた。即ち、

(一) 原告は昭和四〇年一一月四日株式会社七十七銀行福島支店から二、〇〇〇万円を借り入れ、昭和四三年三月一二日全額弁済したが、右二、〇〇〇万円(以下本件二、〇〇〇万円という)の弁済は実父大蔵の株式会社東邦銀行に対する定期預金三、〇〇〇万円の解約払戻金をもつてなされた。

(二) 大蔵は福島交通株式会社の創立者で、当時その関連会社をも掌握し、相当の個人資産を有していた。

(三) 原告が福島市北五老内町等に高額な不動産を所有し、また原告の夫が同所で病院を経営し得たのは、ひとえに大蔵の父親としての財産管理、運用によるものであつた。

(四) 本件二、〇〇〇万円について借用書などが作成されていない。

(五) 被告は本件二、〇〇〇万円の出所等につき面会調査をしたが、その際調査を担当した仙台国税局職員に対し

(1) 原告は昭和四四年一月二八日税に関することは一切大蔵に、また経理に関することは大蔵が経営している太陽商事株式会社の社員菅野宏二、丸川洋司にそれぞれ委せている旨、

右菅野は右同日本件二、〇〇〇万円は八巻二良からの借入金である旨、

(3) 右八巻は同月二九日原告に対する二、〇〇〇万円の貸付を認めたが、その出所につき大蔵との関係があるため答弁できない旨、

(4) 大蔵は同月三一日、本件二、〇〇〇万円は同人が昭和三七、八年ころ原告に贈与した二、五〇〇万円の一部である旨、

それぞれ事実に反する申立をした。

以上の事実に徴し、本件二、〇〇〇万円が親子間の自然の愛情にもとづいてなされた贈与であることは明らかである。

2  仮りに1の主張が認められないとしても、前記借入金二、〇〇〇万円の弁済は相続税法八条のみなす贈与に該当し、その額は二、〇〇〇万円である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告主張の贈与は否認する。

本件二、〇〇〇万円は、原告が昭和四三年三月一二日大蔵から無利息、弁済は原告の夫が外科病院を開設した一年後から毎月二五万円宛分割してなす約定のもとに借り受けたもので、現に原告は左記のとおり大蔵に対し合計一、四四五万九二七六円を支払つた。

(一) 昭和四四年六月一七日 二〇〇万円

(二) 同月三〇日 六〇〇万円

(三) 同年一二月一五日 二五万円

(四) 昭和四五年一月七日 二五万円

(五) 同年三月三一日 二五万円

(六) 同年六月四日 二七〇万円

(七) 同月二四日 三〇〇万九二七六円

また、大蔵は原告に対し残金五五四万〇七二四円を訴求(昭和四六年(ワ)第二三号貸金請求事件)し、同年二月二五日全部勝訴の判決を得ている。

なお、被告主張の1の(一)ないし(四)は認め、その余は知らない。

2  被告主張のみなす贈与は争う。

みなす贈与に該当する弁済は、それが代位弁済などによつて本来の債務者がその債務を完全に免れ、実質的に贈与と同一の利益の帰属がある場合であつて、後に弁済を要する本件のような場合は含まれない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし四、第四号証の一、二、第五ないし第一三号証

2  証人菅野宏二、丸川洋司、織田鉄蔵、渡辺実原告本人

3  乙第一ないし第四号証の各成立は不知、その余の乙号各証の各成立(第七号証、第八号証の二、三の原本の存在を含めて)は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし四、第七号証、第八号証の一ないし三、第九ないし第一三号証の各一、二

2  証人千葉普

3  甲第八ないし第一三号証の各成立は不知、その余の甲号各証の各成立は認める。

理由

一  被告が原告に対し本件処分をしたことは当事者間に争いがない。

二  そこで被告主張の本件二、〇〇〇万円の贈与の有無について判断するに、原告の七十七銀行に対する借入金二、〇〇〇万円の返済が実父大蔵の定期預金の解約払戻金でなされたこと、大蔵が実業化として多方面に活躍し、福島地方における屈指の財産家であること、また父親として原告の財産を管理、運用し、その蓄財に尽力してきたこと、本件二、〇〇〇万円について借用書等貸借関係を証する書面が作成されなかつたことはいずれも当事者間に争いがなく、証人千葉普の証言、同証言によつていずれも真正に成立したと認められる乙第一ないし第四号証、第六号証の二ないし四によると大蔵、菅野宏二、八巻二良らは仙台国税局職員から面会調査を受けた際、本件二、〇〇〇万円の出所につき被告主張のようにそれぞれ異なつた説明をしたが、本件二、〇〇〇万円につき原告と大蔵との間に金銭消費貸借契約が締結されたとの説明はなされなかつたこと、そして、原告、大蔵らは本件処分に対する異議申立段階に至り、本件二、〇〇〇万円が貸金である旨主張したことが認められる。

以上の事実に後記認定のとおり、大蔵が原告に対し税金を免がれるため、本件二、〇〇〇万円を貸金であるとして原告主張の訴を提起してることを併せ考えると本件二、〇〇〇万円は原告が父大蔵から贈与を受けたものと推認できる。

もつとも各成立に争いのない甲第一号証、乙第一二、第一三号証の各一、二及び弁論の全趣旨によると、大蔵は原告に対し、その主張のとおり本件二、〇〇〇万円の一部の支払を求めて訴を提起し、勝訴判決を得ているが、原告は大蔵の代理人である弁護士から、自己の依頼した弁護士を介し右の訴訟は税を免がれるための見せかけの訴訟である旨説明をうけ、右事件の口頭弁論期日にも出頭せず、欠席判決を受け、そして、大蔵から右判決は執行しない旨の確約が得られたため控訴しなかつたことが認められるので、原告主張の勝訴判決をもつて本件二、〇〇〇万円が貸金であると認めることはできない。また、各成立に争いがない甲第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし四、第四号証の一、二、証人渡辺実の証言によつて真正に作成されたことが認められる甲第八ないし第一三号証によると、原告の七十七銀行に対する普通預金通帳には、昭和四四年一二月一五日二五万円、翌四五年一月七日二五万円、同年三月三一日二五万円、同年六月二四日三〇〇万九二七六円をそれぞれ払戻した旨の記載があり、他方大蔵の七十七銀行に対する普通預金通帳には右払戻に照応した年月日に同額の金員が預入れた旨の記載があること、更に大蔵は原告に対し領収証五通(昭和四四年六月一七日付二〇〇万円、同月三〇日付六〇〇万円、同年一二月一五日付二五万円、昭和四五年一月七日付二五万円、同年三月三一日付二五万円、同年六月四日付二七〇万円)を交付したことが認められるが、これらはいずれも本件処分があつた後に関係人の間になされたものであることを考えると、右領収証の存在等の事実をもつて前記推認を覆えすに足りず、乙第二ないし第四号証、第六号証の三、四、証人丸川洋司、織田鉄蔵、菅野宏二、渡辺実の各証言中前記推認に牴触する部分はにわかに措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。

以上の次第により、本件二、〇〇〇万円は原告が大蔵から贈与を受けたものであるから、これを基礎にして相続税法(昭和四五年法一三号による改正前)二一条の四、同条の六により相続税を算出すると、被告主張のとおり一、〇四九万五〇〇〇円となり、そして国税通則法(昭和四五年法八号改正前)六六条より無申告加算税を算出すると一〇四万九五〇〇円となるので、被告がなした本件処分は適法というべきである。

三  よつて原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用については行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 佐藤貞二 裁判官 石井義明 裁判官 金野俊男)

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